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「カーボン・クレジットの品質(1)」
~ガバナンス(スタンダード)について~

カーボン・クレジットにも品質があります

多くの方々は、カーボン・クレジットや再生可能エネルギー証書を購入する際、1トンのカーボン・クレジットは1トンの価値、1kWhの再生可能エネルギー証書は1kWhの価値しかないと思われることでしょう。

しかし、実際にはそうではありません。なぜなら、これらのクレジットや証書にはCO2や電力の数量的価値以外にも価値があるからです。その理由は、これらを購入する行為が、単に特定の削減目標を満たすための法的な対応ではなく、気候変動対策に積極的に貢献する自主的な取り組みであるからです。より具体的に言うと、当該クレジット・証書を購入し脱炭素化を図った製品やサービスを取引先が購入することで、取引先も世間や顧客にその姿勢をアピールしたいからです。そのため、そのクレジット・証書がSDGsの何に裨益しているのか、逆に悪影響を与えていないかといった視点は非常に重要になります。万が一虚偽につながるようなものであった場合には、自社だけでなく、取引先等に対しても多大なる影響を与えることにつながります。

当社では、この「カーボン・クレジットの品質」の問題について複数回にわたりコラムを執筆したいと考えています。第1回目の今回はカーボン・クレジットの観点、特にガバナンス(スタンダード)の観点で見てみたいと思います。

高品質なクレジットとは

カーボン・クレジットは、企業や個人が排出する温室効果ガス(GHG)の量を削減するための取り組みによって得られるクレジットです。これらのクレジットは、排出量削減の困難な場合には他の地域やプロジェクトでの削減を購入することで、当該製品やサービス等から出る排出量の相殺(オフセット)を行うことができます。しかし、まだまだ新しい取り組みであるため、様々な批判が引き起こされているのが事実です。

例えば、カーボン・クレジットを購入することで本当にCO2の削減に寄与しているのか、一度売られたカーボン・クレジットがまた別のところで売られていないか、さらには、1トンのCO2削減から生まれたと主張しているカーボン・クレジットが本当に1トンの削減をされた結果から生まれているかといった問題は、カーボン・クレジットの世界では、古くて新しい問題です。

そういった問題に対処し、企業による健全なクレジット利用の促進を進めるため、2021年炭素市場規模拡大を目的に立ち上げられた自主的炭素市場インテグリティ協議会 (ICVCM)は、2023年7月The Core Carbon Principlesという考え方を提唱。以下の3つの観点を順守することを高品質なクレジットとして定義しています。

  1. インパクト
    追加性、永続性、しっかりした削減量・除去量の定量化、ダブルカウンティングの防止

  2. ガバナンス
    効果的なガバナンス、トラッキング、透明性、しっかりした第3者機関による審査と検証

  3. 持続可能な開発
    持続可能な開発とセーブガード、ネットゼロへの移行への貢献

これらの項目は1つひとつが大切なポイントを含みます。今回は1の「ガバナンス」から見てみましょう。

「スタンダード」がカーボン・クレジットの透明性と信頼性を高めます

カーボン・クレジットを創出するためには、温室効果ガスの削減を実現するための具体的な要件を明確にする必要があります。具体的には、どのような削減手法がカーボン・クレジットの創出対象とするのか。また、その際の削減量の考え方はどのようになるのか。

このような考え方を整理し、信頼性を高め、一貫性を確保するものが「スタンダード」と呼ばれるものです。国際的に認められているスタンダードには、Verified Carbon Standard (VCS)、Gold Standard (GS)、Climate Action Reserve (CAR)と呼ばれるものがあります。国内では環境省・経済産業省・農林水産省が共同で推進するJ―クレジット制度が最も著名なスタンダードとなるでしょう。

こういったスタンダードに従ってカーボン・クレジットを創出し、流通することには幾つものメリットがあります。

例えば、ダブルカウントの問題です。各スタンダードは固有のレジストリを持ち、CO2クレジット1トンごとに固有の番号を採番し管理をします。その管理をする際に、市場参加者が取引をした際には各企業が持つクレジット口座への移転(銀行取引でいう振り込み)を電子的に管理し、その流通状況をトラッキングする仕組みを持っています。また特定の企業がカーボン・クレジット使い、カーボン・オフセットをした際には、そのクレジットが他に使われないように「取り消し」処理を行って、他の第3者に取引出来ないような処理をかけます。

他にも、「方法論」というものを定義し、クレジットの創出に関する明確な基準を専門家の意見を取り込みながら整理し、定期的に更新をかけることによって、信頼性を確保する取り組みを推進しています。

これにより、市場参加者はクレジットの品質や由来を正当化することができます。スタンダードは、透明性と信頼性を高めることで、カーボン・クレジット市場の健全な運営を支援しているのです。

どのスタンダードを使うのかを検討するのは重要な第一歩です

最近になり、こういった著名なスタンダードを使うことが、求める要件が特定されてしまうことや要件が難しいといったことから、自社や団体で新しいスタンダードを作り出してカーボン・クレジットを創出する動きが出ています。しかし、前述の通り、市場参加者はこれらのスタンダードが求める手続きを経ることで信頼性の高いクレジットを創出し、透明性をもって流通することが可能となっているのです。

また最近弊社に問い合わせが増えている相談として、Jクレジットの要件が厳しいので、VCSといった海外のスタンダードを活用して、国内でクレジットを創出出来ないかという相談があります。これもスタンダードの成り立ちを考えるとわかるのですが、Jクレジットは日本を対象としたスタンダードとして設計がなされているため、日本の事情に即した形で方法論等が設計されています。もう少し具体的に記載すると、Jクレジットは日本の事情に即した形で要件を明確にすることで、事業者自身がその正当性を立証する手間を省いているのです。またそうした形で信頼性を担保しているからVCS等のクレジットよりも品質が均一なため、高い価格が設定されているとも考えられます。

一方、VCSといったグローバルのスタンダードは途上国を中心に世界各国で通用するスタンダードとなっているため、具体的な内容は事業者側で整理する形を取っています。そのため、一見VCS等の方が、自由度が高く使い勝手が良いように感じられるのですが、その分、事業者側がその明確化されていない箇所を明確にすることが求められているため、一般的にはVCS等を日本で当てはめてクレジットを創出することの方がコストが高くなります。また価格もJクレジットで見込める価格を得ることは難しくなり、VCS等の価格基準で取引をしなくてはならなくなってしまい、経済合理性で考えて合わない判断となることが一般的です。

そのため、カーボン・クレジットを創出、もしくは、購入する際にも、まずはどのスタンダードを使うのかを検討するのは重要な第一歩であると考えます。

弊社では、国内であればJクレジット、海外であればVCSもしくはGSのクレジットを対象に著名なスタンダードに従って作られたクレジットのみを取り扱っており、45万CO2ton相当*1のクレジット等を国内外の大手企業様を中心に取引をさせて頂いております。また22年度に創出された低価格帯のJクレジットの約40%*2の創出・供給に携わる等、クレジットの創出や、日本国政府が推進するJCMを含めた各種スタンダードの活用に関するコンサルティングも推進しておりますので、クレジットの購入もしくは創出に興味のある方は、お問い合わせを頂ければ幸いです。

*1: 22年7月~23年6月における国内外のカーボン・クレジットおよび再生可能エネルギー証書の取引量。証書については0.514CO2Ton/MWhで換算。

*2: 22年4月~23年3月における太陽光発電、森林を除くJクレジットの創出量に対するJクレジットの創出・1次取得の割合

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