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2025
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「カーボン・クレジットの品質 (5)」~~

多くの方々は、カーボン・クレジットや再生可能エネルギー証書を購入する際、1トンのカーボン・クレジットは1トンの価値、1kWhの再生可能エネルギー証書は1kWhの価値しかないと思われることでしょう。
しかし、実際にはそうではありません。
なぜなら、これらのクレジットや証書にはCO2や電力の数量的価値以外にも価値があるからです。
その理由は、これらを購入する行為が、単に特定の削減目標を満たすための法的な対応だけではなく、気候変動対策に積極的に貢献する自主的な取り組みでもあるからです。より具体的に言うと、当該クレジット・証書を購入し脱炭素化を図った製品やサービスを取引先が購入することで、取引先も世間や顧客にその姿勢をアピールしたいからです。
また自社の脱炭素に使った場合には、その内容を株主や従業員、顧客といった様々なステークホルダーにアピールしたいからです。
そのため、そのクレジット・証書がSDGsの何に裨益しているのか、逆に悪影響を与えていないかといった視点は非常に重要になります。万が一虚偽につながるようなものであった場合には、自社だけでなく、取引先等に対しても多大なる影響を与えることにつながります。当社では、この「カーボン・クレジットの品質」の問題について複数回にわたりコラムを執筆しています。第5回目の「トラッキング」の観点で見てみたいと思います。

 

<トラッキングとは>

ご存じの通り、カーボン・クレジットは企業や個人が避けられない排出を補うために、GHGを削減または除去するプロジェクトを支援することで、排出量を相殺できる仕組みです。しかし、カーボン・クレジットの真の価値は、その「信頼性」と「環境への影響を追跡できること」にあります。
ここで鍵となるのがトラッキングの概念です。カーボン・クレジットにおけるトラッキングとは、特定のプロジェクトから発生したクレジットがどのように創出され、最終的にどの企業や個人によって使用(償却・無効化)されたのかを追跡できる仕組みを指します。

 

 <クレジットの品質におけるトラッキングの位置づけ>

炭素市場規模拡大を目的に立ち上げられた自主的炭素市場インテグリティ協議会(ICVCM)は、2023年7月The Core Carbon Principlesという考え方を提唱。以下の3つの観点を順守することを高品質なクレジットとして定義していることを述べました。

 1  インパクト
追加性、永続性、しっかりした削減量・除去量の定量化、ダブルカウンティングの防止

2   ガバナンス
効果的なガバナンス、トラッキング、透明性、しっかりした第3者機関による審査と検証

3  持続可能な開発
持続可能な開発とセーフガード、ネットゼロへの移行への貢献

上記のようにThe Core Carbon Principlesでは、ガバナンスの中の必要な観点として「トラッキング」を定義しています。
ここで定義されているトラッキングとは、カーボン・クレジットのトレーサビリティとは、クレジットが生み出された時点から最終的に使用されるまでのライフサイクル全体を追跡する仕組みを指します。
これには以下が含まれます。

・排出源の特定

・クレジットが創出されたプロセスや削減活動の各段階での排出量測定内容

・カーボン・クレジット取引の監視

トラッキングが確立されることで、企業は環境へのインパクトを可視化し、排出削減の内容や効果を正しく把握し、公表することが可能となります。
例えば、カーボン・クレジットを運用する各制度、日本で言うとJクレジット制度、は各削減・吸収プロジェクトから生み出されたクレジットを1トンの単位でユニークな番号を振る形で管理することが求められています。
そうすることで各制度は、一つの取り組みから複数のクレジットが生まれる、二重計上を回避することが可能としています。
さらに、世界で最もメジャーなカーボン・クレジット制度のVCSは誰が何のために使ったか、把握できる仕組みになっており、第3者が排出量の取引の内容を監視することが出来る仕組みとなっています。(残念ながらJクレジットは公表していません。)
しかし、上記の情報は最低限必要な仕組みであると考えています。クレジットを買う側の観点に立つと、他にもいろいろな情報をトラッキングしたいと考えるようになります。

 

<カーボン・クレジットを購入する側が持つべき視点>

 排出源の特定と最終段階のユーザーの管理は、各制度が基本的に保有している機能ですが、昨今、特に問題が出ているのは、
①オーバークレディティングといったクレジットが創出される過程の確からしさと
②その収益が適切に現地に行っているかです。

①の問題については、例えば植林活動によるCO2吸収事業であれば、その植林により回復された森林が火事や乱伐、獣害にあわずに正しく生育されていることが求められますが、その状況をトラッキングできなければ、クレジットを発行して良いとは言えません。各プロジェクトではその状況を計測して報告したうえでクレジットが発行できるのですが、衛星画像等を使って常に第3者が確認できる仕組みがあれば、さらに信頼性が増します。

②の問題は、カーボン・クレジットの流通にあたり、複数の中間事業者が間に入ると、その過程でどうしてもコストが発生し、最終ユーザーが支払った金額から実際にCO2削減に関与した人に渡る利益が限られてしまう問題です。例えば24年、25年に日本で起こっている米の高騰は間に入っている投機的な動きをする事業者に利益が渡り、米を生産する農家には米高騰による還元が十分なされていないといった話しが出ています。国内のJクレジットにおいても、削減行為を行っている事業者にクレジット収益があまり配分されないような事例を聞くようになっています。

こういった問題に対応するため、昨今のトレンドとしてはカーボン・クレジットを購入するユーザーが自らクレジットの開発に関与することで、①の情報の取得に関わり、また②の中間に入る事業者を抑制する形で、クレジットを確保するようになってきています。そうすることでグリーンウォッシングを避けることが可能となるのです。
ただ上記の対応は、投資判断や、ある一定以上のボリュームがないと実施できないため、全ての会社が出来るわけではありません。そのため、単なるトレーダーではなく、仕組みを開発し、自らプロジェクトに関与しているカーボン・クレジットの開発事業者と取引を行うことが求められるのです。

弊社は、国内であればJクレジット、海外であればVCSもしくはGSのクレジットを対象に著名なスタンダードに従って作られたクレジットのみを取り扱っており、130万CO2ton相当*1のクレジット等を国内外の大手企業様を中心に取引をさせて頂いております。また様々な種類のJクレジットの創出や、日本国政府が推進するJCMを含めた各種スタンダードの活用に関するコンサルティングも推進しておりますので、クレジットの購入もしくは創出に興味のある方は、お問い合わせを頂ければ幸いです。

 *1: 22年7月~25年6月における国内外のカーボン・クレジットおよび再生可能エネルギー証書の取引量

 

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