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「カーボン・クレジットの品質(4)」~追加的な便益・コベネフィットについて~

多くの方々は、カーボン・クレジットや再生可能エネルギー証書を購入する際、1トンのカーボン・クレジットは1トンの価値、1kWhの再生可能エネルギー証書は1kWhの価値しかないと思われることでしょう。 

 しかし、実際にはそうではありません。なぜなら、これらのクレジットや証書にはCO2や電力の数量的価値以外にも価値があるからです。その理由は、これらを購入する行為が、単に特定の削減目標を満たすための法的な対応ではなく、気候変動対策に積極的に貢献する自主的な取り組みであるからです。より具体的に言うと、当該クレジット・証書を購入し脱炭素化を図った製品やサービスを取引先が購入することで、取引先も世間や顧客にその姿勢をアピールしたいからです。そのため、そのクレジット・証書がSDGsの何に裨益しているのか、逆に悪影響を与えていないかといった視点は非常に重要になります。万が一虚偽につながるようなものであった場合には、自社だけでなく、取引先等に対しても多大なる影響を与えることにつながります。 

 当社では、この「カーボン・クレジットの品質」の問題について複数回にわたりコラムを執筆したいと考えています。第4回目の今回は追加的な便益・コベネフィットの観点で見てみたいと思います。 

 

<持続可能な開発への貢献> 
カーボン・プロジェクトの開発に携わると、そのプロジェクトが気候変動対策だけではなく、様々な便益をもたらすことに気づきます。 例として、弊社がフィリピンで推進している水田のメタンを削減するプロジェクトを取り上げてみましょう*1 

 水田の土壌には酸素が少ない条件でメタンを生成する微生物が住んでいます。一般的に、東南アジアでは水田の水を張りっぱなしにして稲作を行っているため、その慣行により多くのメタンが放出されています*2 

 ここで、メタンは酸素の少ない条件で作られるので、土壌に酸素を供給すると発生を抑えられます。このプロジェクトでは水稲の栽培中に水を張る(湛(たん)水)・抜く(落水)を繰り返す水管理を行うことで、米の収量を落とさずにメタンの発生量を大きく減らすことを推進するプロジェクトとなっています。 

ただ農家さんに取っては慣れ親しんだ慣行を変えるのは容易ではありません。そこで弊社では、農業専門家を通じた農業スクールを実施することで、水の管理だけでなく、種の選定や肥料のやり方といった農業全般のトレーニングを実施し、米の収穫量の向上を推進するとともに、水管理を実施した農家に対してお金(インセンティブ)を支払うことで、行動変容とその定着化を促しています。 

 メタン削減を行っているため、温室効果ガスの削減に役立っていることは容易に理解できると思いますが、それ以外にも様々な便益をもたらしています。以下に、このプロジェクトが地域等にもたらす便益をSDGsの15の目標に沿って、内容を見てみましょう。 

 

<目標1:貧困をなくそう> 
このプロジェクトに関わる農家に対してインセンティブ(資金)が支給されています。 

<目標4:質の高い教育をみんなに> 
農業スクールを通じた、農家の能力開発・スキル向上を実施し、米の収量および収入の改善につなげています。 

<目標5:ジェンダー平等を実現しよう> 
社会的な構造により長らく資金とリソースへのアクセスに障壁が生じている女性を農業スクールのトレーナーとして、積極的に雇用しています。 

<目標 6 すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する> 
近年の気候変動による気候パターンの変化により、フィリピンにおいても水不足により稲作の断念を余儀なくされる農家が出ております。水管理の向上により、水を効果的に活用することで、より多くの農家が稲作の継続が可能となります。 

<目標8:働きがいも経済成長も> 
現地の人材を雇用し、農業スクールの講師として育成することで、地域の失業率の改善に貢献するとともに、より高度な就業機会の創出につなげています。 

<目標13:気候変動に具体的な対策を> 
水田1haあたりCO2換算で6トンの温室効果ガスが削減されることが想定されています。 

 このようにカーボン・クレジットを創出するプロジェクトは、その設計次第でCO2削減にとどまらず、さまざまな便益を地域やコミュニティにもたらすことが可能となっています。 

 

<持続可能な開発の位置づけ> 
炭素市場規模拡大を目的に立ち上げられた自主的炭素市場インテグリティ協議会 (ICVCM)は、2023年7月The Core Carbon Principlesという考え方を提唱。以下の3つの観点を順守することを高品質なクレジットとして定義していることを述べました。 

 1.インパクト 
追加性、永続性、しっかりした削減量・除去量の定量化、ダブルカウンティングの防止 
2.ガバナンス 
効果的なガバナンス、トラッキング、透明性、しっかりした第3者機関による審査と検証 
3.持続可能な開発 
持続可能な開発とセーフガード、ネットゼロへの移行への貢献 

 上記のようにThe Core Carbon Principlesでは、インパクトやガバナンスといった大項目的なレイヤーでこの持続可能な開発を定義しています。そして、持続可能な開発とセーフガードでは、「カーボン・クレジットプログラムは、社会および環境の保護に関する幅広く確立された業界のベストプラクティスに準拠し、あるいはそれを超えるような活動が行われることを確保するための明確な指針、ツール、およびコンプライアンス手順を持つ必要があります。同時に、ポジティブな持続可能な開発への影響をもたらすことが求められます。」と定義され、ネットゼロへの移行への貢献では、「緩和(削減)活動は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする目標と矛盾する、GHG排出量や技術、炭素集約的な長期の固定化を回避する必要があります。」と定義されています。 

 難しく書いてありますが、要するにSDGsへの貢献を高い基準で求め、CO2削減が出来たとしても当該設備を導入することで長期に化石燃料の使用が続くような設備の導入を回避すべきだということです。後者の設備の例を具体的に示すと、例えば超超臨界石炭火力のような設備は一旦導入してしまうと数十年の運用が継続してしまうため、例え石炭火力の中では高効率であったとしても、当該設備は石炭火力の維持につながため、クレジット創出は適切ではないという考え方です。 

 

<カーボン・クレジットを購入する側が持つべき視点> 
上記観点からすると、SDGsに貢献するプロジェクトや、ネットゼロの移行に資するプロジェクトは、当該要素をそれほど有さないプロジェクトに比べて、価値が高いという考え方となります 

 冒頭に記載したフィリピンのプロジェクトは、SDGsの観点で言えば、少なくとも6つの目標に対応したプロジェクトです。途上国のコミュニティを巻き込んだプロジェクトは多くのSDGsの項目に裨益する傾向にあります。また農業プロジェクトなので、化石燃料の継続的な使用とは関係がありません。 
一方でメガソーラーや大規模風力といった大型の再エネプロジェクト、設備導入を通じた工業的なプロジェクトは、プロジェクトに巻き込むステークホルダーが限られるため、SDGsの項目を多くカバーすることは難しい傾向にあります。 

 ボランタリークレジットの中でも、VCSスタンダードではSD VistaCCBといったSDGsの貢献を評価するラベリングの制度も有しておりますし、GSというスタンダードはそもそもがSDGsへの貢献をプロジェクトに求める仕組みとなっています。資金を投じる企業も気候変動活動への貢献を効果的にアピールするためにクレジットが裨益する効果や内容を十分吟味し、評価することが求められています。まず一歩目は、ラベリングがついているものを評価・購入することから始めることが良いかと思います。 

 弊社は、国内であればJクレジット、海外であればJCM、VCSもしくはGSのクレジットを対象に著名なスタンダードに従って作られたクレジットのみを取り扱っており、45万CO2ton相当*2のクレジット等を国内外の大手企業様を中心に取引をさせて頂いております。また22年度に創出された低価格帯のJクレジットの約40%*3の創出・供給に携わる等、クレジットの創出や、日本国政府が推進するJCMを含めた各種スタンダードの活用に関するコンサルティングも推進しておりますので、クレジットの購入もしくは創出に興味のある方は、お問い合わせを頂ければ幸いです。 

*1: クボタ・クレアトゥラ・東京ガス、フィリピンにおける水田由来のメタン排出削減の共同実証について発表 – 日本経済新聞 (nikkei.com) 
*2:温室効果ガス:水田からのメタンが温暖化で増加 (常陽新聞連載「ふしぎを追って」) (情報:農業と環境 No.116 2009年12月) (affrc.go.jp) 
*2: 22年7月~23年6月における国内外のカーボン・クレジットおよび再生可能エネルギー証書の取引量。証書については0.514CO2Ton/MWhで換算。 
*3: 22年4月~23年3月における太陽光発電、森林を除くJクレジットの創出量に対するJクレジットの創出・1次取得の割合 

 

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